モメンタム株の巨頭オニール 第一人者が示した投資哲学
兼業投資家で著名投資家ブロガーのみきまるさんに、株式投資の必勝テクニックを学ぶ連載。みきまるさんは、株式界のレジェンドたちの投資法を紹介する本を数百冊読破し、独自の手法で数億円の資産を築いたスゴ腕投資家です。彼らの投資法をひもといていくと、現在の日本株運用に通じるノウハウも多いはずです。
編集部 株式界のレジェンドから投資の必勝テクニックを学ぶ本連載。今回取り上げるのは、米国の著名投資家ウィリアム・オニールです。ウォーレン・バフェットと同世代で、株価の上昇に勢いのある銘柄を買って上値を追う「モメンタム株投資」の確立者としても知られる人物ですね。
みきまる これまで見てきたモメンタム株投資のレジェンドには投資法に抜け穴がありました。結果、ジェシー・リバモアは投資で大成功を収めたものの、生涯で4度の破産と再起を繰り返し、自ら命を断ちました。
オニールは、有望株の条件を具体化した「CAN-SLIM投資法」を提唱しました。価格が大きく上昇した銘柄の「C」「A」「N」「S」「L」「I」「M」を頭文字とする英語の特徴を指摘。それらの特徴に当てはまる銘柄への投資を勧めました。
編集部 リバモアは、このうち「M(Market Direction=相場全体のトレンドが悪くなく、下降トレンドではない)」に対する戦術を持っておらず、急落時に身を守れなかったそうですね。
みきまる はい。モメンタム株投資は株式市場がボックス相場や下げ相場になっている局面では使えない手法だからです。この「M」を入れたCAN-SLIMを使って銘柄を選ぶと、どの時間軸で切り取ってもだいたい米S&P500種株価指数をアウトパフォームするという結果が出ているところが、オニールの投資法のすごさです。
バリュー(割安)株投資家の私も「単純なバリュー株投資一辺倒では勝てない」と壁に当たっていた時に、CAN-SLIMを解説したオニールの著書『オニールの成長株発掘法』(パンローリング)という本に出合いました。日本株に応用したところ、「優待グロース(成長)株」をポートフォリオに組み込むことができました。その後は、独自に「YOU-CAN-SLIM」という投資法を開発して銘柄を選んでいます。
編集部 何の頭文字なんですか。
みきまる YOUは優待のYOU、CAN-SLIMの「S(Supply and Demand)」は「東証プライム市場の上場維持基準をギリギリ満たす銘柄で、優待の新設や拡充を行いそうな銘柄」。「M」はPBR(株価純資産倍率)が低く、配当と優待の総合利回りの良い「みきまる銘柄」の略です。
市場はやりたいことをやる
みきまる 2023年に生涯を閉じたオニールは、これまでに数々の名言を残してきました。それが詰まった著書が『オニールの相場師養成講座』(同)です。オニールが口述した内容をそのまま収めており、モメンタム株投資の哲学を、語り言葉ならではのテンポと分かりやすさで解説しています。
例えば「投資で大成功することと、あなたの感情や個人的な意見とはなんの関係もない。株式投資は、わたしたちがどんな人間で、どんなことを考え、どんなふうに感じているかなどまったくお構いなしだ。市場はなににも増して野獣だ(中略)。市場はやりたいことをやる。市場に逆らっても損をするだけだ」という表現。これは相場の動きに沿って行動しなればいけないというモメンタム株投資の考え方をドライかつ敬意を持って示しています。
編集部 「市場に一貫性がないのだから、あなただけが一貫しているわけにはいかない」という言葉もありますね。
みきまる 負ける投資家は、決定的にこの部分が欠けているように思います。「この株がよい」と信じたら、自説を一切曲げない。そのため含み損を抱えてしまうのです。
重要なのは、相場の流れに合わせて柔軟に対応すること。株式投資は戦場です。X(旧ツイッター)などを見ると、ある時「この株がいい」と投稿していた資産1億円超の投資家が、業績が悪くなるとまるでその発言がなかったように振る舞うのは日常茶飯事です。
市場では状況が変わると、前言を翻してもよいのです。そうでなければ生き残れない。この世界での常識は世間の常識とは違います。トップクラスの投資家は変人ばかり。私自身も投資哲学は一貫しているものの、勝負する銘柄はどんどん入れ替えています。
編集部 相場を主導する株は常に変化するので、「『良い』株とか『安全』な株というものは存在しない」ということですね。
みきまる はい。市場では常に新しいスター株を見つけなければいけません。モメンタム株投資の視点では「どんな銘柄でも上がらなければ悪い株」なので、「こだわりをもたないこと」が大切です。上がっている間は売らず、売る時は「負け銘柄から手をつける」。
オニールの言葉を借りれば、ポートフォリオの管理はガーデニングと似ています。「買値よりも上がっている株は花で、いちばん下がっているか、いちばん上がっていない株が雑草」です。常に意識してポートフォリオを健全に保つようにしたいところです。
編集部 買い判断を誤ったと感じたら、損切りも必要ということですね。
みきまる 『オニールの成長株発掘法』に「赤いドレスの話」があります。アパレルショップの店長が、赤、緑、黄のドレスを仕入れました。赤は売り切れ、緑は半分ほど売れましたが黄は売れなかった。ここで黄色いドレスをさらに仕入れようとする人はいないはずです。ナンピンするというのは売れ残ったドレスを仕入れるのと同じこと。リスクを減らすためには、処分して次の銘柄に行く必要があるのです。
日本株市場に応用すると
編集部 CAN-SLIM投資法を使って今の日本株市場で有望な銘柄を選ぶとしたら、どんな株が候補になりますか。
みきまる 一例は、USEN-NEXT HOLDINGSです。子会社で動画配信大手のU-NEXTは23年、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」の運営会社と統合。22年の定額制動画配信サービスにおけるU-NEXTの国内シェアはネットフリックスに次ぐ2位で、CAN-SLIMの「L」をクリアしています。業績も堅調で「A」などのほか、機関投資家の保有を示す「I」も満たしていると見られます。